水泳のお時間

「もう一人でプールに飛び込めるまで出来るようになったか。驚いたな」

「えっ?あっ…」


水しぶきの上がる大きな音がしたかと思うと、勢い良くプールに飛び込んだわたしを見て、瀬戸くんが口を開いた。


その言葉に、わたしは押し瞑っていた恐る恐る目を開ける。

するとわたしが今立っていた場所は、水の中で…。


「…ほんとだ…」


その瞬間、わたしはまるでその感触を確かめるように、すぐさま両手で水をすくい上げた。


そんなわたしの指の隙間からは、確かに透明色の水がこぼれ落ちていって。


目を見開くわたしに、瀬戸くんが優しく微笑む。


「…桐谷は今日、何の練習がしたい?」


そのまま驚きを隠せずにいたら、瀬戸くんがふと顔を傾けてきた。


その言葉にわたしはプールの水から視線を離すと、目の前の瀬戸くんを見あげて首をかしげる。


「わたし、ですか…?」

「今日は、桐谷が教わりたいと思うことを教えてあげるよ」


わたしが、瀬戸くんに教わりたいこと…?

瀬戸くんに突然そう言われてしまい、思わず戸惑ってしまう。


だけど、目の前では瀬戸くんがそんなわたしの言葉を待っていて

その眼差しに体が熱くなるのを感じたと同時に、わたしはギュッと目を閉じると、思い切ったように口を開けた。


「瀬戸くん。あの…」

「……」

「わたしに平泳ぎを、教えて下さい。瀬戸くんに教わりたいんです。泳げるようになりたいんです」


そう言って緊張から両手を握りしめたわたしに、瀬戸くんが静かに微笑んだ気がした。


そのまま肩に触れてきた瀬戸くんの指に、ふとあの時の出来事が頭をよぎり、体の芯まで熱くなる。


…あの時は、わたしが恥ずかしがってしまったせいで最後まで出来なかった平泳ぎの練習…。


だけど今の私はもう、あの時の自分とは違うから。

この前よりも成長したわたしを、瀬戸くんに見て欲しいから。

だから今日こそは絶対…途中で逃げ出したりしない。