水泳のお時間

その瞬間、わたしは思わず動かしていた足を止めて、息を呑んだ。


そんなわたしの瞳に映るのは、あの瀬戸くんが泳いでいる姿…。


水の弾ける音や、水しぶきはほとんど無い。


ただ静かに、まるで水の中を渡るようにして泳ぐ瀬戸くんの姿に、気がつくとわたしは目を奪われていた。


「…いたんだ」

「えっ?あっ…」


しばらくその姿に感動して見とれていたら、ふと瀬戸くんが泳ぐのを止めてこっちを振り向いた。

そのままフッと優しく向けられたその笑顔に

わたしは思わず瀬戸くんがいる方へと走り出し、興奮した様子で両手を握りしめる。


「す、すごい。瀬戸くんすごいです。わたし、今の泳ぎ見ててすごく、すごく感動しました」

「桐谷も指導が終わる頃には、こんな風に泳げるようになるよ」

「えっ…?」


思ってもみなかった瀬戸くんの言葉に、わたしはビックリしてしまった。


そのまま目を丸くして戸惑ったような表情を浮かべるわたしに、目の前では瀬戸くんが柔らかな眼差しを向けている。


こんな私でも…、瀬戸くんみたいに…?


「ほ、ほんとに泳げるようになれるのかな…」

「かな、じゃないだろ?」

「……」

「おいで」


やっぱり自信が持てなくて黙り込んでしまったわたしに、瀬戸くんが優しく声をかけてくれた。


その言葉に、わたしはおそるおそるプールの水へ足を差し入れると、思い切ったように中へ飛び込んだ。