水泳のお時間

「言えないんだ」

「……」

「ふーん。ま、いーよ。言いたくないなら」


俯いたきりそのまま顔を上げられずにいたら、しばらくして小野くんがあきらめたように呟いた。


そして大きく伸びをしたかと思うと、そこから勢いよく立ち上がる。


「けど桐谷さんのビキニ姿か、けっこー興味あるかも」

「え?」

「はい。これで全部。じゃーね」


そう言って小野くんは拾い集めた物をわたしに手渡してくれたかと思うと

二段抜かしで軽快に階段を駆け上がっていった。


そんな小野くんに、すっかりお礼を言いそびれてしまったわたしは、渡されたものを両手で握りしめたまま、その様子をポカンと見つめる。

「……」

元々、わたしはそんな自分から話しかけられるような性格じゃないし

極度の人見知りのせいで、小野くんとは、同じクラスになってもう二ヶ月も経つというのに、一度も話をしたことがなくて。


だから今日、転んだわたしを助けてくれた小野くんに驚いたし

ごく普通に話しかけられて内心戸惑ったりもしてしまった。


…それに、確か小野くんて水泳部のエースだったみたい。


今年で三年生だから、先月に引退してしまったみたいだけれど


過去に、水泳の大会で優勝して何度か朝礼台で表彰されていたのを見たことがあるから

こんなわたしでも、少なからず小野くんの活躍なら知っていた。


ある意味、小野くんも瀬戸くんと同じように、器用で目立つタイプだから

マキちゃんやアヤちゃん達がカッコイイって、しきりに騒ぐのも分かるような気がする。


でもその分手を出すのが早いとか、軽いとか

どこにもそんな確証はないのに、それでも小野くんの良くない噂はよく耳にするから…。


せっかく助けてくれたのに、こんな事を言うのはすごく、すごく失礼かもしれないけれど。


わたしは正直――小野くんが苦手…。