水泳のお時間

「ほら、俺に掴まっていーから」

「あ、ありがとうございます…」


小野くんはそう言って大きな手を差し出したかと思うと

座り込んだままのわたしの体を引き上げてくれた。


だけど、さっき突然押された拍子に思わず通学カバンを落としてしまい、中に入れていた道具が一気に飛び散ってしまって。


すぐさま片付けようと、もう一度床にしゃがみこんだわたしに、どうしてか小野くんも同じように床へ膝をついた。


「えっ?」

「俺も手伝うよ」

「あ…ご、ごめんなさい…」


目の前では、落としてしまったわたしの荷物を、黙々と拾い集めてくれている小野くん。


通りすがりである小野くんにあんな姿を見られて、しかも拾うのまで手伝ってもらって、申し訳なく思ったけれど


でも、いきなり誰かに後ろから突き飛ばされた事はやっぱりショックで、黙って俯いていた。