だけどその気持ちを口に出すことは出来ないまま黙っていたら、しばらくして私からゆっくりと瀬戸くんの指先が離れていった。


「またね」

「はい…」


薄れていく瀬戸くんに体温に寂しさを感じてしまいながらも、わたしは精一杯笑い返す。


そして少しずつ遠くなっていくその背中を見送りながら思い出してしまったのは、耳元で囁かれた瀬戸くんの言葉…。


“俺が途中で止めたのは…桐谷をこのまま、俺のモノにしてしまいたくなったから”


「~~~っ」


その瞬間、わたしは声にもならない声をあげたかと思うと、両手で顔を覆いとっさにその場へしゃがみこむ。


そして今はもうずいぶん遠くなってしまった瀬戸くんの後ろ姿に向かって

今にも消え入りそうな声で、とても小さく…弱々しい声で呟いた。


「瀬戸くん、わたし…瀬戸くんになら、イイんです。行き過ぎた指導だって、構いません。あなたのモノだって、してもらえるなら、なりたいです…」


こんな事を願ってしまうわたしは、きっと重症なのかもしれない。


これ以上望んじゃだめだって、分かっているのに。


叶わない恋だと思い知らされて、後から辛くなるのは自分だと、分かっているはずなのに。


思わせぶりな事をしてきたり、イジワルを言ったと思ったら、時には甘い言葉を囁いたり


そうやって貴方はいつも、わざと私の心を惑わす…。