水泳のお時間

「違うよ」


するとその時、瀬戸くんがふと口を開いた。


その言葉に、わたしはハッと顔をあげる。


すると瀬戸くんは動かしていた足を止めたかと思うと、こっちに振り向いてわたしを見た。


「理由、桐谷は知りたい?」

「!…はいっ」

「そう。なら教えてあげるよ。俺が途中で止めたのは、水泳の指導が、そうじゃなくなりそうになったから。それだけだよ」

「…えっ?」


水泳の指導が、そうじゃなくなる?

瀬戸くんの言った言葉の意味がうまく分からなくて、思わず訊き返してしまったわたし。


きっと、そんなわたしの顔が間抜けで、可笑しかったんだと思う。

瀬戸くんは目を細めて笑った。


「今までは桐谷のこと、あくまで“指導者としての感情”として教えてきたけれど、あの時は“俺個人の感情”として、あのまま止まらなくなりそうになったから、止めたんだよ」

「…?か、かんじょう…?止める…?」

「やっぱり分からないか。いいよ。それならこの際率直に言ってあげるから」


……?


瀬戸くんの言葉に、わたしはさらにキョトンと首をかしげる。

するとその瞬間、瀬戸くんはフッと微笑んでみせたかと思うと

わたしの方へ顔を近づけ、静かに耳打ちした。