自分の部屋へ戻ったわたしは、ぽすんとベッドに倒れこんだ。

そして枕に顔を押し当てたまま、そっと目を閉じる。


“何だか少し痩せた気がするし、どこか具合悪いの?”


…ごめんね、お母さん。


最近わたしに食欲がないのは、具合が悪いとかじゃないの。


ただ先週までは夢にも思わなかったことや…

考えもしなかった事が一度にたくさん、たくさん身の回りで起こったから


とにかく胸がいっぱいで…入らないんだ。


“明日はいつもより帰りが遅くなるって、親御さんに伝えておいて”


「~~~っ!」


その時ふいに瀬戸くんの言葉を思い出してしまい

わたしは声にもならない声をあげそうになる。


こらえきれず、とっさに両手で胸を押さえた。


…どうしよう。今日は眠れないよ。

だって、それって…


つまり…明日は今日よりももっと、瀬戸くんと長くいられるって意味でもあるから…。



「……」


しばらくしてわたしはベッドから起き上がると

通学かばんのファスナーを開け、瀬戸くんからもらったゴーグルをそっと手に取る。


そしてそのゴーグルを見つめながら、わたしはふと首をかしげた。


“逆に桐谷が初めから上手く出来てたら、それはそれで…イヤだから”


…そういえばあの時の瀬戸くんが言ってた話、どういう意味だったんだろう?



わたしは早く、瀬戸くんの言われたとおり上手になりたい。泳げるようになりたい。


一日でも早くうまく出来るようにならなくちゃ、間に合わないのに。


だから瀬戸くんもきっとそれを望んでると思ってたけど、違うのかな。


今はまだ言えないけれど、いつか訊いてみたい。


だけどわたしから瀬戸くんに訊ける日なんて、来るのかな…。