「…ごちそうさま」


瀬戸くんとお別れした、その日の夕食。


とりあえずテーブルの椅子に座り、手を合わせるものの

結局、お皿に盛られたおかずにほとんど手を付けられないまま、箸を置いてしまったわたしに

向かいに座っていたお母さんが動かしていた口を止めて、キョトンと顔をあげた。


「あら。知鶴どうしたの?全然食べてないじゃない」

「なんか、食欲出なくて…」

「この前もそんな事言って全然食べなかったじゃない。…何だか少し痩せた気がするし、どこか具合悪いの?」


そう言って、わたしの体を心配してくれる母。

だけどわたしはとっさに首を横にふると、小さく笑ってみせた。


「ううん違うの、大丈夫。…ごはん残しちゃってごめんね。残ったおかずは、明日の朝食べるから」


わたしはそう言って、静かに手を合わせると

残してしまったおかずにラップをかけ、冷蔵庫の中にしまった。


そしてリビングのドアを開けようとしたところで、後ろをふりかえる。


「あ、あのお母さん…」

「なに?」

「えっと明日はいつもよりその…遅くなるけど、し、心配しないでね…」


わたしの言葉に、お母さんは一瞬ポカンとしたけれど

すぐに微笑んでうなずいてくれた。


「そう。わかったわ。くれぐれもマキちゃん達に迷惑かけないようにね」

「う、うん…っ。それじゃあおやすみなさいっ」


その会う相手がいつもの女友達ではなく、本当は“男の人”なんて言えず


わたしは逃げるようにリビングを飛び出すと、階段をかけあがった。