「どうしたの?そんなに顔、赤くして。…何を想像してたのかな桐谷は」

「!えっ、えぇとあのっこれは…」

「はは。冗談だよ」


考えていたことを見透かされてしまい、ますます顔が赤くなる。


だけど瀬戸くんは、わたしがそんな風に反応することをまるで初めから分かっていたみたいに


ふっと微笑んでみせたかと思うと、ポンポンと頭を撫でてくれた。


「ほら、もう家に戻らないと。親御さんが心配してるよ」

「は、はい」

「じゃあね」

「おやすみなさい…っ」


あわててペコッ!と頭をさげたわたしに、瀬戸くんは何も言わず微笑んでうなずき返してくれた。

そのまま遠くなっていく瀬戸くんを見送りながら

わたしはそっと自分の唇に触れてみる。


すると途端に部屋で瀬戸くんとした事を思い出してしまい

胸がドキドキ熱くって、体が溶けそうになった。


「~~~~っ…」


…瀬戸くん。


あなたはさっき、私のことを忘れんぼうでうっかりで、せっかちだと言っていたけれど。


わたしが忘れんぼうで、ついうっかりしてしまうのは、あなたを意識してしまうからで、


せっかちになるのは、あなたとの時間が限られているから。


数週間後に控えたプールの授業が始まれば、また以前のような関係に戻ってしまう事も

そしてずっとこんな幸せが続くわけではない事もちゃんと分かってる。



だからこそ、本当の夏がやってくるまでの限られたこの時間だけは…あなたに溺れていたい。