坂を登って、我が家の鍵を開ける。
二人で少しずつお金を貯めて買った、憧れのマイホームだ。
外見はどこにでもあるような普通の家だけど、中身にかなりこだわった。
「ただいま」
「ただいまー!!」
「あ、おかえりなさ~い」
リビングから聞こえた声の主。
「あれ、今日って早帰り?」
「ううん、たまたま仕事が早く終わって」
スーツ姿でスラっとした背、あの頃のようなあどけなさはもうなくなっている。
あたしの旦那、十弥。
ただ、スーツを家の中でも脱がないという、アホなところはそのまま成長したんだけど。
「パパー!ただいまー!!」
パパがいるとわかると、全力で飛びつく鈴。
あらら、十弥も顔がニヤけてる。
デレデレだもんなぁ。
鈴がまだハイハイの頃、おむつは俺が変えるって言って聞かなかったもん。
まあ、こっちにとってはものすごく有り難い事だから、そのまま任していた。
世間ではそれは珍しい事らしく、十弥がイクメンかぁ、なんて我が夫ながら感心してる。
「ほら、鈴、手洗ってこよ、ママも行くから。あと、十弥。スーツでいるとシワシワになるっていっつも言ってるでしょ。早く脱いできて」
「はーい」
「へーい」
鈴は元気よく手を挙げて返事をして、あたしと洗面所に向かう。
十弥は、のろのろと自分の部屋に戻る。
「スーツ、ちゃんとハンガーにかけといてね!」
十弥がスーツを脱ぐ前に、念を押しておく。