波音の回廊

 水城家の庭園にまで戻った。


 清廉の館まで、あと少し。


 私の寝泊りする客間は、その手前。


 「まだ帰したくない」


 先ほどの口づけを機に、私と清廉の距離は一気に縮まった。


 ためらうことなく、互いに触れ合うようになった。


 「それならもう少し、庭で月でも眺めましょう」


 東屋に腰掛け、天頂に近づきつつあった月を眺めようとした時だった。


 「……?」


 庭の奥のほうで、人影が揺らめいたのが見えたのだ。


 「誰だろう、こんな時間に」


 清廉は目をこらした。


 「まさか、泥棒とか」


 「いや。護衛の者が連日見張りをしている。だからここには、水城家の者しか夜間は入ることができない」


 ちょっと気になったようで、清廉は静かに近づいた。


 警戒しているのか、腰に差した刀に手を添えている。