波音の回廊

***


 「ほら、また空を星が横切った」


 清廉が空を指差す。


 あれから数日後の、満月が過ぎた夜。


 私たちは庭園に隣接した、展望台に来ていた。


 展望台の外は、坂が芝生に覆われている。


 そこに二人で座り、星を眺めていた。


 都市の光害も、沖合いのイカ釣り船のまばゆい電灯も存在しないこの時代。


 辺りは一面星だらけだった。


 六等星以下の星まで、見ることができそうなくらい。


 星が多すぎて、星座早見盤で見たような星座の形が分からない。


 月はまだ東の空で、天頂付近にはあいも変わらず「恐怖の大王」が寝そべっていた。


 私はそれをハレー彗星だと知っているので、怖くも何ともなかったし。


 清廉も不吉の前兆だとはみなしていない様子で、平然と彗星の下で過ごしていた。