波音の回廊

 ならば、あれは幻?


 清廉と過ごした時間は、気を失っていた間に見た、ただの夢だったの?


 いいえ違う。


 私が体験したことは、全て現実。


 私はその時間、不思議な力によって別の時代に移動していたんだ。


 声も、ぬくもりも何もかもが、私の記憶に深く刻み付けられている。


 幻であるはずわけがない。


 「清廉……」


 一人部屋の病室に、冷たい十六夜の月明かりが差し込んできた。


 昨夜は満月だったので、月の形からも一日しか時間が経過していないことが証明される。


 父は私が大丈夫なのを見届けて、一足先に札幌に帰った。


 どうしても明日は、欠席できない会議があるという。


 母だけがこの町に残った。


 私は一人で大丈夫と告げたので、母はログハウスに戻り、札幌に戻る準備を始めていた。


 一緒に泊まるという母を強引に帰してでも、私は一人になりたかった。