波音の回廊

 「父上!」


 清廉は我に返り、当主の元へと駆け寄った。


 「父上、よかった。生きておいでで……。すぐに医師を」


 「無駄だ。水城家伝来の毒草の威力は、お前も知っているだろう? もう視界も霞み、舌も震えて喋るのがやっとだ……」


 「……」


 清廉も知っている。


 先祖伝来の毒草の効力は、恐ろしいことを。


 それゆえ水城家の者たちは、調合法を伝授されると同時に、毒を少しずつ摂取し、耐性もつけていたはずなのに……。


 七重は毒の調合を独自にアレンジして、さらに強力な毒を作り上げていたようだ。


 解毒剤は七重が死んでしまった今、誰も調合することはできない。


 毒を盛られた者は、静かに死を待つしかなかった。