波音の回廊

 「違うのよ。いつか話したでしょう? 私は無理やり清明に体を奪われ……。殿にばらされたくなければ関係を続けろ、と脅されていたのよ」


 清廉は分かっていた。


 きっと清明にも、七重は逆の話をしていたのだ。


 (私は清廉に、襲われそうになったの。それが清廉が父親を毒殺しようとした原因)


 それを真に受けた清明は……!


 「あなたが立派な男になる日を、待ちかねていたのよ」


 誘惑の甘い罠。


 七重に触れられ、清廉はぞっとした。


 「触るな!」


 七重の魔の手を払い除けた。


 「汚れた手で、私に触るな! どうせ用済みになった日には、私も消されるのだろう」


 「清廉、」


 「お前のせいで、何もかもが狂ってしまった!」


 清廉は刀を振り上げた。