波音の回廊

 「私がここにいるのが、信じられないといった表情ですね、母上」


 いつもは「七重」と呼び捨てにして、母とは決して呼ばない清廉が。


 この日は「母上」と口にした。


 もしかしたらそれは、初めてのことかもしれない。


 ただしかなり皮肉のこもった口調ではあったが。


 「驚くのも当然。母上は兄上をけしかけて、私を殺そうとしたんですからね。兄上と私の力の差を考えても、私がこうやってここに現れるのは、計算外だったでしょう?」


 「清明は……?」


 「私を殺しに来て、返り討ちに遭いました」


 「な……! 兄である清明を斬ったのね! ひ、人殺し!」


 「あなたにそう呼ばれるとは心外ですね、母上?」


 清廉は皮肉な笑みを浮かべた。


 「だってそうでしょう? 兄上をたぶらかし、利用し、死へと追いやったのは、他でもないあなたなのだから!」


 徐々に清廉の声は高まっていった。