波音の回廊

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 七重は清明の腕の中で、大荒れの太平洋で高波に揺られていた夜のことを思い出していた。


 ……昔仕えていた公家の姫君が、東国の領主の元へ嫁ぐことが決まった。


 姫は生涯を京都御所、いわゆる花の御所で過ごすと思っていたのに。


 地位よりも婚姻によって得られる富に目がくらんだ父親によって、はるか彼方の陸奥(みちのく)へと嫁がなければならなくなった。


 もう二度と京には戻れないことを悟り、姫君は出発まで毎晩泣いていた。


 姫君に仕えていた七重もまた、まだ見ぬ陸奥の地に対して思い浮かぶのは不安ばかりだった。


 だが姫君の前では、気丈に振舞い続けた。


 やがて出発の日が訪れた。


 京の都を旅立ち、陸路伊勢まで向かい。


 伊勢の港から、陸奥を目指して船旅が始まった。