波音の回廊

 「!」


 清廉の手が止まる。


 (そうだ、私には瑠璃が……)


 清廉に迷いが生じた。


 (義理とはいえ母である七重を斬ったら……。今度は私が罪人だ。身寄りのない瑠璃を一人残してはいけない)


 そして凶行をためらった。


 「お前など、刀で斬るのも汚らわしい」


 清廉は刀から手を離した。


 「最後に一言警告しておく。兄上にもう近づくな。これ以上繰り返したら、この館にいられないようにしてやるからな」


 こう吐き捨てて、清廉は七重の部屋を出た。


 出たところで、部屋から出された侍女とぶつかった。


 心配して様子を伺っていたようだ。


 距離があるので、会話の内容までは聞こえていないだろうけど。


 ただならぬ清廉の顔色に侍女はぎょっとして、何も問いかけられずにいた。