波音の回廊

 「あなたから私を訪れるなんて、珍しいわね。何か用かしら」


 「……重大な内容です。二人きりにしてもらいたい」


 抑揚のない声でそう告げて、櫛を手にした侍女を一瞥した。


 侍女は深刻な状況を察知し、櫛を鏡台に置いてそそくさと部屋を出て行った。


 「侍女にも聞かせられない内容なのかしら?」


 「それは、あなたのほうが心当たりあるのでは?」


 「……いったい何のことやら」


 七重は全く表情を変えない。


 一筋縄ではいかなそうだ。


 「昨晩、庭園で清明と何をしていたか……。記憶にないとでも?」


 「ああ、あのこと……」


 驚愕の表情どころか、七重が浮かべたのは余裕の笑みだった。


 「私は悪くないわ。あれは清明が無理矢理……。私は被害者よ」