「父上、折り入ってお話が」


 企画書の提出を追え、当主の館を退出するかと思いきや。


 清廉は当主の元に引き返し、小声で告げた。


 じいは部屋の外で待たされていた。


 「話とは何だ」


 「七重のことです」


 「七重?」


 「あの女は……。父上の妻に相応しくありません」


 「……どういう意味だ?」


 「あの女は、不貞を働いております」


 「何だと?」


 寵愛する女が密通していると告げられて、当主は驚いた表情で息子を見た。


 「相手は誰だ」


 「それは……」


 清廉は口をつぐんだ。


 名を出すわけにはいかない。


 「どうした、何かを隠しているのか」


 「いえ……」


 「不貞を働いているという事実を掴んだということは、決定的な証拠を何か握っているのだろう? まさか憶測でそんな話をしているわけではないだろうな」