波音の回廊

 「それに私は……あなたの父、この島の最高権力者の妻だし。こんな関係ばれたら、あなたもただでは済まない」


 そう言って七重は、そっと清明の手に触れた。


 「つまり私たちは、義理の親子」


 「……俺は世界の誰より、あなたを愛している。あなたのためならば、どんな犠牲も厭わない」


 「清明」


 ……。


 私は清廉と木陰でこっそり、後妻と息子の逢い引き現場を覗き見していた。


 ……私からすると、それはあまりに茶番だった。


 七重が清明を色仕掛けでたぶらかしているのが、明々白々だったから。


 なのに清明は、全身全霊をかけて本気で七重を愛してしまったらしい。


 日頃の軽薄で強引な振る舞いからは、今目の前の清明の言動は、にわかには信じがたかったけど。