波音の回廊

 「待って、七重」


 背を向けた七重の肩を、清明は掴んだ。


 「あなたは、私を利用しているのね……」


 憂いに満ちた声で、背を向けたまま七重は口にした。


 「またそんな……。どれだけ態度で示せば、あなたは分かってくれるんだ」


 清明はそのまま、七重を背後から抱き締めた。


 「でも……。私はあなたよりも十も年上だし、もう若くはないし……。そして何より、私は人妻」


 「そんなの関係ない」


 「それにあなたは最近、清廉の連れて来た娘に、ちょっかいを出しているって噂よ。やっぱり若い子のほうが」


 「違う。俺は昔から、清廉のものを奪い取るのが趣味なんだ。あいつが悔しがる顔が見たいだけなんだ」


 清明は、七重の首筋に口付けをした。