私は恋はしない。
そう決めたのは、3年前。
あの時から、私は私を女の子として生きていくのをやめた。


ここは清蓮女子高校の2年3組
この学校は、全寮制の女子校で、偏差値はやや高め。
それなりに頭が良く、しかも可愛い女の子が多い。
そして、個性的な子も多いのだ。


放課後、教室の片隅で女子が3人おしゃべりをしていた。
チョコをぼりぼり食べながら、神山楓は友達にぶつぶついっていた。

「どーせね、あたしはここの学校に似つかわしくない女よ?知ってる知ってる。」

セミロングの黒髪で、少しだけ癖っ毛がある。
身長は164センチと高め。普通の顔、普通の体系、この学校じゃ中の下レベルだと自分で思っている。
部活はバスケ部に所属している。バスケは、小学校の一年生からずっとやっており、
この学校ではエースで、中学生のときは、男子と張り合っていた。それくらい強い。
今日は部活がないので、友達とガールズトークだ。
女子が集まると始まる恋愛話、楓は苦手だった。
恋の話なんてくそくらえ!女子校で出会いなんてあるわけないだろうが!
合コン?!ナンパ?!したこともされたこともない。
違う。したこともされたこともないと言うよりも、そんなことにもう興味はないのだ。
中学校から、恋愛はやめた。

「あんたずぼらなのよ。この学校は女の子らしくなるためにきたんでしょー」

小春が、そう突っ込む。その通りだ。小春は突っ込み担当。楓と小春は同室で、もう2年目になる。なんでも言える仲なのだ。
冷静で思った事をバンバン言って、胸にしみることも多いが、正論なので言い返せない。それに、人のことをしっかり見ていて、とても良い子なので、嫌われることはない。

「なんで小春ちゃんはそんなこと言うかなぁ、楓ちゃんはすぐに彼氏出来そうなのに」

優衣が、そういった。145㎝の小さい子で、ほわんとしていて、とても可愛らしい女の子だ。性格も、見た目も女の子らしい。楓は見るたびに抱きついている。髪の毛はボブで、顔が小さいのでそれが似合う。彼氏はとても大きくて、隣の聖輪に通っている。中学校からもう4年付き合っているのだ。皆が公認しているカップルだ。

「優衣、楓は優衣みたいに可愛らしい女の子じゃないの。
体育のジャージはまともに洗わず、部屋は足の踏み場がない。
聖輪の男子校のほうが似合うんじゃないかと思うくらいよ」

楓は、胸にぐさりとくることをバンバン言われて、灰になった。
うなだれている。そうなりたくてなったわけじゃない。
この性格のせいだ。イコール自分のせいだ。それはわかっているけれど、反論したいけれど出来ないのは、小春の指摘が正しいからだ。

「楓ちゃん、最近気になる人いるんでしょ?」

優衣が、そういうと楓は頷いた。
気になる。男の子としてじゃないけれど。
バスケットプレイヤーとして、あそこまで気になる人が出来たのは、今までなかった。

「へーあんたいるんだ」

小春は意外そうな顔をしてそういうが、優衣は目を輝かせた。
小さい体を乗り出して、楓の手をとった。

「誰?!」

「教えない」

変な意味に取られそうな気がしてやめた。
しかし、優衣が聞きだそうと必死になっている。

「じゃぁ、どこの学校?」

「聖輪だけど」

楓は、顔を真っ赤にしてうつむいた。あの人のプレーを思い出すと、本当に見惚れてしまう。
それくらい格好いい。
そう、それは1年生の冬休み、部活の要件で隣の聖輪に体育館を貸してもらうよう頼みに行ったときだ。
そこにいた、一際目立つ男子生徒が、目から離れなくなった。一瞬で目で追えるようになった。
先輩が話している間に、ずっと彼だけを見ていた。あの動き、シュートの仕方、自分が今まで一番格好いいと思っていたプレイヤーを越えた。
荒削りだけれど、それは高校生だから、でも格好いい。あんな動きしてみたい。そう思うほど、格好いいのだ。
名前もわからない。推定180㎝、綺麗にシュートを決める姿が目に入って離れなかった。
あんなにカッコイイと、誰にでもモテて大変だなと思っていた。
ただ、それだけだ。プレーヤーとして、とても格好いいとは思うけれど、別に恋じゃない。
練習中も、みているけれど、男子と関わることはない。皆が噂しているのも興味がない。
練習のためにいって、練習が終われば帰る。楓は、男友達が多い。しかし、聖輪に行った人はいない。

「どんな人?歩夢くんに探してもらう。」

歩夢というのは、優衣の彼氏だ。優衣は胸を張っていた。

「え、いいよ!!ほら、あたしはこんなんだし」

「楓、名前くらい知ってもストーカーにはなんない」

小春は楓の肩をたたいた。ストーカーになろうとは思わない。

「…バスケ部、推定180㎝」

「もっと詳しく!」

優衣は、メモ帳を出して、女の子らしい丸っこい字でメモをしていた。

「…えっと」

押すので楓は頼むことにした。

「体格はよくて、薄茶色の髪の毛…たぶん染めててワックスで固めてる。なんか行くといつも女子がいる気がする。
だから、かっこいいんじゃない?バスケ上手いし、エースだと思うよ。」

小春はしっかり書きこんでいた。楓に言われたことを全部書くと、にっこり笑った。

「じゃぁ、伝えておくね」

「小春ー!!大好きー!!もう妹にしたい」

楓は、優衣に抱きついた。小春はにこにこ笑いながら抱きつかれていた。
小春があきれ顔で突っ込む。

「やめな。暑苦しいな。」


数日後、優衣が朝食の時間に小春と食べている楓のところにきた。

「わかったよ!!」

「ほぇっ?」

楓は、パンを頬張りながら首をかしげた。

「バスケ部のひと!!」

楓は眼を大きくして、驚いて噎せた。咳をすると、優衣は大丈夫?といった。
そして、優衣はすぐに情報を伝える。

「奥出湊くん。同じ高校2年生でバスケ部のエース。歩夢くん、同室だったの!!
しかも、しかも!!今は彼女いないよ!」

楓は、嬉しかったが別にその情報は入らないと思った。
もったいない。あんなに格好いのに。

「…ふーん」

「今度、練習試合あるから一緒に行こうよ。次の日曜日」

優衣がせっかくさそってくれたので、楓はいくことにした。その情報は実は知っていた。
毎週金曜日言っているときに、その話をしているのを聞いた。
ちょうど部活もないし見るだけならタダだ。じっくりあのバスケ部を見るのは初めてだ。
いつも練習に夢中で、興味なんて1ミリも持たずに行って帰っていた。
そこそこ強いと知っていたのに、なぜ興味を持たなかったのだろう。
中学校の頃の男友達は沢山いて、情報を欲しがるから面倒で話したことはない。
とにかく、男子と仲良くなるのは上手だが、それを生かして聖輪の人と仲良くなろうとは思わない。
話しかけられることもないので、この4ヶ月間一切そんなことはなかった。