―もしもし?




電話の向こう側の声に、ホッとする。
池内だ。
リダイヤルを押していたらしい。




「池内・・・」

―ん?ああ、どうした?

「春香が・・・春香がっ・・・!血を流して・・・手首から・・・」

―ちょっと、落ち着け!どうした?

「真っ暗で・・・電気つけたら、春香が倒れてて・・・包丁が・・・包丁が落ちてて・・・」




気を動転させながら、必死で状況を知らせる。
お願い、助けて。

春香が、目を開けないんだ。


いつ?
俺が部屋を出てすぐ?
それとも・・・さっき?



ポタポタと、耐えられなくなった涙が落ちる。
ガクガクと震える身体。
見てる世界も、感じる感覚も、全てが夢みたいで。




―しっかりしろ!俺も今からそっち行くから!

「池内・・・」

―救急車はこっちで呼んどく。だから、なるべく止血しとくんだ!

「うん・・・うん・・・」




しっかりしろ、しっかりするんだ。
俺がしっかりしなくちゃ。
春香を、助けるんだ。