きっと、君を離さない



心を落ち着かせて、私は彼の病室に向かう。
普通に接せられるだろうか。


彼女の事、口に出してはしまわないだろうか。




「あ、春香ちゃん。今日も来たね」





病室に入った瞬間の彼は、どこか思いにふけっていた表情をしていた。
それなのに、私を見るとコロッと表情を明るく変え笑った。


そんな風に、無理して笑うのももう明日で終わり。
明後日からは、ちゃんと大好きな彼女の元に戻って。





私なんかに捕らわれなくて。
あなたの幸せを、守って。





「今日は、なに持ってきてくれたの?」

「・・・ネタに尽きて」




今日食べきれないほどの果物を持ってきたところで、退院するときの荷物になるだけ。
そう考えて、なぜか手にしたのはキーホルダー。



彼によく似ていると手にしてしまったキーホルダーは、にっこり笑った犬。






「犬が、笑ってる」

「いらなければ、捨ててください」

「なんで、嬉しいよ」




本当は、そんな形に残るモノあげたくなんてなかったけれど。