「私が、あなたにこんな話をしていいのかわからないけど。春ちゃんのためにも、あなたのためにも話します」

「・・・はい?」

「そして、決めてください」




決める?
なにを決めるというんだ。
そして、なにを聞かされるって言うんだ。


俺は、この人からなにも聞きたくなんてない。
聞くなら、春香ちゃんの口から聞きたいのに。

そんなこと、させてくれないという。




「春香は、生まれた時から孤独でした。その頃は私も遠くに住んでいたので、その頃の事はわかりません」

「・・・」

「私が知っているのは、春ちゃんが施設に入った頃でした」




施設。
その響きに、過去に何かがあったことは確かなのだと。
彼女の両親は、亡くなったのか、それとも別の理由なのか。

いろんな憶測が頭を巡る。
廻ったところで答えなんて出ないのだと知りながら・・・。



彼女の抱えているものが、とてつもなく大きなことのような気がしてきた。





「会った頃の彼女は、絶望の淵に立たされ、いつでも暗闇に転がり落ちていきそうなほどボロボロでした。なにも信じず、誰の言葉も届かない」

「・・・江梨子さんの言葉も?」

「ええ、もちろん。瞳は開いているのに、その瞳には何も映ってはいないようで。色を失ったようで見ていられませんでした」




まだ、小さな子供。
そんな彼女をそこまで絶望させたものはいったいなんだろう。