あなたの隣には誰がいますか?
あなたの大切な人は誰ですか?
あなたは今、誰を愛していますか?

今日は、人生でたった一回しか来ない高校の入学式。
照り輝く太陽と共に、私は4月8日を迎えた。
今日は、いつもよりも太陽が眩しいな。

【石原姫香】
高校1年生になった私は、ひとけのない屋上を眺めていた。
”あそこから飛び降りれば楽に死ねるかな?”そう思った。
「お前、またそんな事考えてんのかよ。心配させんな。」
後ろから、聞き覚えのある低い声が聞こえてきた。
矢崎翔平。
彼は、学校一のイケメンで学年トップの成績を誇る、いわば理想の王子様。
入学式ながら、彼の評判は良い。
彼は、人の心が読める能力を持っている。
私が、そんな彼と同居し始めたのは11年前ーー。

5歳ーー。
私の顔には涙が流れており、心は闇と憎しみが詰まっていた。
まさか、こんな事が起こるなんて思わなかったからだ。

17時30分ーー。
いつもの様に、お母さんが迎に来るのを待っていた。
ところが、お母さんは18時になっても私を迎えに来る事はなかった。
「あの、すいません。姫香ちゃんを迎に来ました。」
息を切らして、1人の女性がやってきた。
翔平のお母さんだった。
隣には、家に帰ったはずの翔平も一緒にいた。
「どうして矢崎さんが?石原さんに何かあったんですか?」
「いえ、お答えするとこはできません。」
私はその時、何が起きたのかわからなかった。

19時00分ーー。
私の家の周りは、沢山の人で埋め尽くされていた。
「石原姫香さんでいらっしゃいますか?」
「はい。」
見知らぬ人の質問に、翔平のお母さんが答えた。
「今、御両親が救急車で運ばれた所です。」
「そうですか。じゃあ、今から向かいますね。」
見知らぬ人は、白衣を着ていた。
まさか、そんなはずないっておもった。
両親が火事で他界するなんて、思ってもみなかった。

19時30分ーー。
「何で、お母さんとお父さん死んじゃったの?お医者さんは苦しんでる人を助けてくれるんでしょ?お母さんとお父さんを助けてよ。ねえなんでよ。馬鹿、馬鹿、馬鹿。」
私は、医者を殴りながら涙を流した。
私は、医者の事が憎くて憎くてたまらなかった。
「医者だからって、全部が上手くいくとは限らない。今回は、お母さんとお父さんをが病院に来る時間が遅かったから、回復することが難しかったんだよ。」
「じゃあ、もっと早かったら助かってたの?」
「かもしれないね。」
私にはもう、医者に話す権利なんてないと思った。

21時00分ーー。
電気をつけないせいか、翔平の部屋は、薄暗かった。
私の笑顔は、次第に無表情になり、心は、悲しみではなく憎しみで包まれていた。
「翔平は、今の気持ちが分かる?私、これからどうすればいいんだろうお母さんもお父さんもいないんだから、生きていけない。死んでもいいかな。」
「死んだら絶対にダメ。死んだらもう終わりなんだよ。せっかくお母さんが姫香を産んでくれたんだから、お母さんとお父さんの分まで生きなきゃ。俺が姫香を助ける。一生守るよ。もう、悲しい思いなんかさせない。」
私は、強く翔平を抱きしめた。
「ありがとう。」
翔平がこんなに必死になった所を初めて見た私は、翔平のこの言葉を信じることにした。
お母さんとお父さんの分までいきるんだってこの時思った。
もし翔平が、私にそう言ってなかったら、私はきっと今、お母さんとお父さんと同じ場所に居るのかな。
私はそう思いながらも、こんなにも格好いい翔平に一目惚れしてしまった。

「姫香、帰るぞ?」
「うん、ちょっと待って。」
私は、いつだって翔平の隣にいる。
なにがあったとしても。
だけど何でだろう。
翔平はすぐ近くにいるのに、遠くにいるような感じがする。
「翔平くん、ちょっと良い?」
「はい。姫香、先に帰ってて。」
「うん。」
私は、今にも泣きそうになった。
私がいけないのかもしれない。
私が、モテモテの翔平なんかを好きにならなければ、こんな思いはしなかった。
「矢崎くん、先輩にもモテるんだね。姫香、大丈夫?」
「え?あ、大丈夫。もう帰るね。」
「ちょっと。」
私は、友紀の言葉を無視して、教室をすり抜けるように出た。
親友の友紀でさえ、私のことを心配してくれない。
私っていつもそう。
親が死んだ私のことを心配してくれてたのは、翔平だけだった。
でも今回は、翔平の事で悩んでるの。
翔平以外に私を心配してくれる人はいない。
屋上を眺めた。
私ってやっぱり、生きてる意味がないよ。
屋上に向かって走った。
「きゃあ。」
「もうそんなこと考えるな。先帰ってろって言ったろ。」
翔平が私の腕を引いて、私に抱きついてきた。
「ごめん。」
ただただ、謝るだけしかできなかった。
本当のことなんて言えない。
「もう心配かけんなよ?絶対だからな。」
「うん。」
私は、翔平が隣にいてくれるだけでうれしい。
だけど、他の女の子に取られると悲しい。
私は翔平の事が、世界で一番好きだから。
【矢崎翔平】
「ねえ、起きてる?」
布団に潜ったばっかの姫香が聞いてくる。
「寝てる。」
寝てたら返事しねーだろ。
俺は、自分で自分に突っ込んだ。
「起きてんじゃん。」
姫香が俺の布団に潜り込んできた。
「なんだよ。」
俺はツンツンさを出しているけど、内心デレデレしている。
姫香がこんなにも近くにいたなんて思っても見なかった。
「私ね、翔平と暮らしててよかった。私、5歳の頃に両親が亡くなって、人間は恐ろしい生き物だって思った。翔平が近くに居てくれて、一生守ってやるって言ってくれて、人間を恐ろしく感じなくなった。人間は一人一人心も体も顔も違う生き物。みんな同じにしちゃいけないなって思った。私が自殺しなくて済んだのも、翔平のおかげ。翔平、ありがとう。」
「今更なんだよ。」
「いや、ちょっと言ってみたくなっちゃって。伝えたいことは今伝えないと、明日何が起こるか分からないでしょ。」
「へんなやつー。」
姫香こ顔は真っ赤に燃え尽きていた。
そりゃそうだ。
だって、俺の体で姫香の小さな体を包んでるからな。
俺は、姫香のおでこを触った。
「ひやあ。」
「そんな声出すなよ。お前顔熱いぞ。」
「翔平がそんな事するからでしょ。もうやだ、一人で寝る。」
「あっそ、おやすみ。」
調子乗りすぎたせいか、俺は姫香と喧嘩した。
だけど俺は、姫香と同居してて良かったって思ってる。
姫香は、凄く世話がやく奴で、一緒に居ると飽きない。