恋愛経験は豊富な方じゃない。


というか皆無に近い。



だけど精一杯に蓄えた薄らぼんやりとした知識では、確か、……せ、接吻、すなわち……キッスとは、好き合っている恋人関係にある男女がなすものだと思い込んでいた。











「――ねえ私間違ってるかなああああ!?」


「合ってる合ってる。でもこの話するのもう7回目だから。ね?」




いい加減にしろよ。

と言わんばかりの小春(コハル)ちゃんのイラついた笑顔を見てしまっては、黙るしかあるまい。



波乱のホワイトデーから2週間と少し。


あの事件が起こった後、部屋の前で聞き耳を立てていたらしい海斗さんを突き飛ばして家に帰った。


あの人出かけてたはずなのに。いつの間にいたんだろう。恥ずかしくて死ねた。



しかも翌日から、見事に阿久津の風邪をもらった私はあろうことか1週間も寝込んでしまい、結局学校へ行ったのは修了式当日だけっていう。




「栄美の妄想なんじゃないの?」


「そんな不吉な妄想しないよ」


「不吉ってあんた……。だって阿久津普通だったじゃん」




実際その通りで。


小春ちゃんの言うように、学校で久々に再会した阿久津はまるで何事もなかったかのように普通だった。