――私すごく恥ずかしいやつじゃないか。


阿久津はそんな気ないだろうに、カッコ悪くめちゃくちゃ動揺しちゃってる。



近すぎるせいか、阿久津の表情は読み取れない。


心臓は爆発するかと思うほど超高速で脈を打って、感情は師走の坊主並みに忙しく荒ぶっているのに、妙に頭はクリアですっきりしていた。




「……阿久津……? あの……? ……離して?」




起き上がろうにも左手首は掴まれたままで、身動きがとれない。


この態勢はきつくて、いっそ阿久津に寄り掛かってしまえれば楽なんだろうけど、そうもいかない。




「……今のは、辻野が悪いよね?」


「……え?」




ほんの少し、阿久津が頭を起こしただけだった。









――たったそれだけで、お互いの唇が触れた。そりゃあそうだ。あれだけ近ければね。


一瞬だけ。自覚する間もなく、あっという間に離れた。夢かと思うほど一瞬の出来事だった。