油断は禁物よ辻野栄美、きっと隙をついてまた私をベッドから突き落とす気なんだこの男は。
いい加減私だって学習した。魂胆は見え見えだ。その手には乗るか!
どうしよう、初めて察してしまったかもしれない。なんていう興奮で段々と余裕が生まれてきた。
今日こそは阿久津の鼻を明かしてやろうじゃないか。一杯食わせてやる。
見てろ阿久津、バレンタインに受けた屈辱、ホワイトデーの今日お返ししてやるわ! ふはは!
フッと自然と笑ってしまったためか、青年は私を見て訝しげに眉を顰めた。
「なに笑ってんの? キモイ」
「……利斗(リト)」
「……は」
阿久津のお望み通り、下の名前を呼ぶ。
初めて呼んだかもしれない。だって阿久津は阿久津だったから。
阿久津利斗、苗字も名前も滅多に聞かないけれど、私は彼の名前が嫌いじゃない。
不意に名前を呼ばれたせいか、自分が言えって強要したくせに阿久津は面食らったように瞳を揺らした。
――チャンスだ。

