私は、阿久津のためを思って言ったのに。考えてここにいるのに。
そんな言い方は酷い。
「……じゃあどうしてほしいの?」
教えてよ。
ただでさえ阿久津は分かりにくいというんだから、この鈍感な私に言わずとも察すれと言う方が無理な話である。
「言うこと聞いてくれるんだ?」
「……む、難しいことじゃなければ!?」
「簡単だよ」
クスリと口角を上げた阿久津の唇に目を奪われた。
久しぶりに笑ってくれた。あんまり気持ちの良い笑顔じゃないけど。
そういえばいつの間にマスクを外したんだろう。何のために。息苦しいのかな。
なんてうっすら考えながらようやく目線を外した瞬間、ふわりと頬を手の甲で触れられた。
……あ。阿久津の手、冷たい。
なんて思いながら、図らずともなってしまった上目遣いで彼を見上げれば、どこで習得できるんだと思うほどの妖艶なオーラが見えた気がして、なんだか背中がゾクゾクした。
阿久津の手のひらは私の頬にかかっていた髪の毛をすくって、後ろへ払う。
今日は、バレンタインを教訓にして黒髪は下ろしてきたのだ。

