「海斗さん、悪い人ではないと思うけどなあ」
「……あいつのことは名前で呼ぶんだ?」
「うん? ……ああ、阿久津こそあいつじゃなくて名前で呼んであげるべきだと思う」
「そういう意味じゃないけど」
「え?」
「あいつのことは海斗サンで、俺のことは阿久津なんだ?」
「え?」
……どういう意味だろう。だって阿久津は阿久津だ。
まさかここで実は阿保津だったんだとかカミングアウトされたら私どうすればいいの。
ていうかどんな名字だよ。もし阿久津が阿保津だったらかなりおもしろいけども。やばいなんか笑えてきた、堪えるのよ栄美。
「……辻野。心の声漏れてるんだけど」
「えっ!?」
「あとニヤけてるし。きもいし。うざいし」
「えっ!?」
どうやら自分でも気付かないうちに自然と口角が上がってしまっていたらしい。
慌てて口元を手で押さえて、誤魔化すようにハハと乾いた笑い声を絞り出した後で目線を床に下げた。
さっきから私「え!?」しか言ってない気がする。
一気に静まった室内で、阿久津は寝返りを打ち私に背を向けていた。

