「……辻野」
「……はっ、……い?」
咄嗟に目を瞑ったけれど、案外唇にそれらしい感触が触れることはなく、代わりに耳元で消え入りそうな声を囁かれる。
……そりゃあそうだ。
私は一体何を想像していたというのだ。やばいどうしよう、消えたい。
阿久津相手に私は何を……!
急激に恥ずかしくなって、自己嫌悪する。間にも、彼は言葉を紡いだ。
「……でかい声出すなよ」
「……え?」
「黙って聞いて」
「は、はい」
「……扉の向こうで聞き耳立ててる変態がいるから、一発蹴りいれて来て」
「……はい?」
私の後頭部から阿久津の手は離され、晴れて自由になった体を部屋の扉へと向ける。
……え。まさかまさか。
まさかと思うけど。
なるべく足音をたてないように歩き、鍵を開けてゆっくりとドアノブを回して引いた。

