――ていうか“すごいヤツ”ってなに……!
不意にくいっと何気なくマスクを下げた阿久津の唇に目がいってしまい、何を考えているんだ自分は、と眩暈がする。
私が目をそらす前にマスクは装着し直され、ホッと安堵した。
固まって動けないでいると、爆弾発言をかました張本人は顔色ひとつ変えずにのっそり起き上がると、ベッドから出てふらふら歩く。
「ま、待った待った! 海斗さんには言わないからさ、せめて安静にしてよ……!」
慌てて阿久津の腕を掴もうとするけれど、何かよく分からない感情がぐわっと押し寄せて躊躇した。
その隙に机の椅子に座った彼は、引きだしを開けると中からリボンの巻かれた瓶を取り出す。
「はいこれお返し」
中には瓶いっぱいにカラフルな飴玉が詰められていた。
「……え?」
「ホワイトデーじゃん」
「……ああ」
いや、今日誘われた時点で、何か用意してくれてるかも、と、少しだけ期待していたことは否定しないけど。
何かもらえるかもなとは、そりゃ思ってたけど。
あまりにあっさり渡してくれたから、ちょっと拍子抜けしてしまう。

