とてつもなく失礼な事を考えていたら、メニューを差し出されて無言で受けとる。

「今、友達いたのかと思ったでしょう」

「え!?」

私、顔に出てたかしら。

瞬きをしたら、倉坂さんは小さく首を振った。

「だいたい、似たような事を言われますから」

……言う人もすごいけれど、言われなれてる風の倉坂さんもすごい。
ある意味、それってイジメのレベルじゃないかしら。

「僕は、人付き合いが苦手なので」

「へ、へぇ?」

私にどんな回答を求めているの?
そもそも、回答するべき?
回答したらしたで、とても失礼な事にならない?

「お前には友達がいないだろうから、なってやる、と、暴言を吐いたのが、ここのオーナーです」

……ぇえと、紹介?

思っていた時、カウンターから白いコック服を着た男性が近づいてきた。

「珍しく女性連れか、倉坂」

……倉坂さんの、噂の友達?

見上げると、人懐こい笑顔を振り撒く人がそこにいた。

「初めまして。大木と言います。倉坂とは大学時代からの付き合いで、去年この店をオープンしたばかりですが、どうぞご贔屓に」

「あ、初めまして。山根です」

好感のもてるニコニコ笑顔は社交的。
とても、倉坂さんの友達には見えない。

「倉坂をよろしく」

ん?

何をよろしくされたの?

「大木、違います。彼女は会社の後輩で、これからまだ残業がありますから……」

「え? まだ後輩? なにやってんのお前。こんな綺麗なお嬢さんほっといたら、すぐに横からかっさらわれるぜ?」

……そうか。大木さんは空気を読まない人なんだな。
それなら、倉坂さんとも友達になれるかも。

「山根さんも否定してください。肯定してると見なされますよ」

「あ。はい。倉坂さんの後輩です。お互い残業中で、ご飯誘って頂いて、来ただけで」

「え~。そうなの? でも、倉坂が誘うなんて、天変地異だけど」

それは私も似たような事を思いましたけれど。