「まあ、普通ならそうだろうけど、相手がちょっとな」

「相手?」

「彼女を奪ったのは、兄貴がずっと慕ってて憧れてた先輩だったっぽい。二人の仲がこじれた隙ににつけこんだのかもな」



ふと、俊先輩が言ってた言葉が頭を過った。

『欲しいと思ったモノは手に入れろ。男でも女でも。ライバルが兄弟や友達でも、タイミングを一つ逃せば、絶対後で後悔する』

先輩の過去の後悔がこの言葉に隠されてる気がした。



「昔はどうあれ、今の兄貴は、ただのタラシに変わりねえよ……」


そう言って、先輩の背中を探す様に、人混みに目を遣った理玖は、「しんみりさせたな」と、軽く笑った。


それが、作り笑いであることくらい、皆、気づいているのに――。