『いっ…た…っ』

足が地面に擦れてしまい激しい痛みが走った


「茉莉花!大丈夫か!?」

ハルトは助けようとした手を一度ぎゅっと握りしめ、茉莉花の側にしゃがんだ


後ろからは引き離していたはずの他クラスの子達が次々とゴールしていく

茉莉花は申し訳なさと足の痛みで目を潤ませた

みんなの歓声や心配の声が耳を掠める

でもどうしても立てなかった。みんなに迷惑をかけてしまったことに、どんな顔で起き上がればいいのか到底わからなかったから


『…っく』

一粒の涙が頬に落ちそうになった時、ハルトは何も言わずくるりと後ろを向いて飛んで行ってしまった

ハルトも、こんな私の姿に呆れたのかな…と思っていたその時、


「茉莉花!!!」

顔を上げるとハルトがゴールテープの向こう側で叫んでいる


「お前が今負けてるのは自分自身だ!!そんな茉莉花俺は見たくねぇぞ!!」

ハルトが必死に茉莉花に訴えている姿が目に飛び込んだ

『は…ると…』

そうだ、このままここいたら今まで練習に付き合ってくれたハルトの気持ちも踏み躙ってしまう

「心配すんな!!言っただろ!傍にいてやるって!」


だから最後まで頑張れ!!

ハルトの言葉で溢れそうになった涙をなんとか堪えた

ふと左手首に百合からもらったリストブーケを見る

『そうだね…』

ーー私は、弱い自分に負けたくない

なんとか体を起こし、足を引きずりゴールまで向かう

走者はみんなゴールしており、茉莉花だけが残っていた


茉莉花の両膝からは痛々しく血が滲んでおり、着ている白いパーカーも砂だらけだ

そんな姿を見て茉莉花のクラスメイトはゴール付近まで走り、規制線であるロープまで前に行き茉莉花を応援した


「林さーん!もうちょっとだ!頑張れー!!」

「茉莉花ちゃん、ゆっくりでいいからね!!」

「がんばれー!!」

「林さーーーん!」

クラスメイトの声に励まされゴールテープまであと少しの距離

ハルトが微笑んで両腕を広げて待っている


「俺の胸に飛び込んで来い」

どこかで聞いた事のあるようなクサイ台詞。
その言葉に茉莉花は

『馬鹿じゃないの』と言って微笑みながら白いテープを切り、ハルトの胸に倒れ込むようにその場にふらっと前のめりになった
ハルトはそんな茉莉花を抱きとめるように腕を回す

空を切り、茉莉花の足はジャリっと運動場の砂を擦り力なくその場で座り込んだ
両膝がジンジンと痛み出す

「林さーーーん!!」

「すげぇよ!マジすげぇよ!!超速かった!!」

「私感動しちゃったよー!」

茉莉花の元にリレーに参加していたクラスメイトが走って来た


『ごめん…私、転んじゃって…』

下を向いていると頬を両手で包まれてくいっと顔を上げさせられた


「全然ごめんじゃないよ!!林さん、すっごくすっごく頑張ってたもん!」

目を潤ませながらそう言ったクラスの女子に茉莉花は安心した笑みを零した

林さーん!お疲れ様ー!と大勢の声が聞こえて振り返るとロープ越しにクラス全員が手を降っていた

茉莉花は左手首のリストブーケを見た後、その腕を大きく上に上げてピースサインをした


みんなさらに歓喜に溢れた


「…勝ったの俺らだよな?」

「なんか持ってかれてね?」

一位のクラスがそう言っていたのは、茉莉花のクラス全員誰も知らない