どれくらいの時間が過ぎただろうか。
少しだけ冷静さを取り戻した私は、妻の友人達に訃報を伝えた。

妻の幼なじみが側にいてくれたおかげで、私は冷静さを維持出来ていた。

そうこうしていると、妻は病室から霊安室へと移された。

妻の顔を見る度に、また涙が溢れ出す。

妻の側から離れたくはなかったが、妻を見ていると正気を保てそうになかった。

幼なじみに送ってもらい、帰宅することにした。

家に着くと、主を失った歩行器が、寂しげに佇んでいた。

それを見て、また涙が溢れた。

その時の私は、尋常じゃない雰囲気だったのだろう。

急遽、ドライブをしようと幼なじみが提案してくれた。

幼なじみは、妻が育った家、学校等を案内してくれた。

私の知らない妻に会えた気がした。

どれくらい走っただろう。

私もだいぶ落ち着き、今度こそ帰宅することにした。

家に着き、再び歩行器に出迎えられる。

一瞬、頭が真っ白になり、次の瞬間には歩行器に縋って泣いていた。

妻の靴を抱きしめ、崩れ落ちるように泣いていた。

幼なじみがそっと私を抱きしめてくれた。

その後の事はまた覚えていない。

眠ってはいなかったと思うが、何をしていたのかは全く記憶にない。

ただ、歩行器を押して、妻に語りかけるように独り言を言いながら、散歩をした記憶はある。