「絶対なんかあった」

理沙は、頭を下げながらも、意地になったように、可憐に小さな声できく。

「しつこい」

可憐は、顔を上げた。

お客は、ボーイに案内されていく。

「折角…心配してやってるのに」

「何もないから」

可憐が、席に座ろうとしたら、

ボーイの1人が、待機席にやって来て、可憐を呼んだ。

「可憐さん。ご指名です」

どうやら、さっき入ってきたお客が、可憐を見初めたらしい。

可憐は、待機から出て、背筋を伸ばしながら、

お客の座る席に向かう。


「ご指名、ありがとうございます」

頭を下げ、少し待つと、

お客が座るように、促す。

可憐は、お客の隣に座ると同時に、ボーイが、ビールを持ってくる。

「ありがとうございます」

テーブルに、ビールを置くボーイの横顔が、

可憐の視線の先に入った。

その瞬間…

可憐の時が止まった。

ボーイは、可憐の方を見ずに、頭を下げると、

席から離れていく。

(そんな…)

その顔は、学校帰りに、

携帯ショップの前で会った…高校生…

その男だった。