だから、栞菜だってさっきあの女の人に叫んでいた。


でも、それが無駄だとわかっているだろう。たとえあの女の人に叫んでも、いくら母親に呼びかけても、もう美知子さんは……。



「……っ…………」



思わず泣きそうになった。
だが、泣いてはいけない。


栞菜は、たった一人の身近にいた大切な大切な母親を亡くしてしまった……。


俺が支えるんだ。これからずっと、家族として、大切な子を支えるんだ。俺が……。



「瞬!栞菜ちゃんっ!」


「親父……」


栞菜が少し顔を上げた。

「慧、さん……っ!ママっ……なん……で…………うっ……うわぁぁああぁ……」



「栞菜ちゃん……」


親父だって泣きたいだろうな。大切な人を失ったんだ。

でも、それ以上に栞菜は大切だった母を亡くして、苦しくて仕方ないのだろう……。




「け、い……さん……ママ、は……幸、せ……そう……だった…………?」



いきなり栞菜は親父に言った。泣きながら、でも親父の目を見て。



「あぁ。とても嬉しそうで、幸せそうだったよ……。栞菜ちゃんが大好きで大好きで……。その栞菜ちゃんに認めてもらえたって、すごく嬉しそうに話していたよ……」



「そっか……」



良かった……そうつぶやいて、栞菜は眠った。



「栞菜……」
「栞菜ちゃん……」



俺は、栞菜の頬に伝う涙を拭きとった。