彼はそのままため息をついた。


「……ん、エプロン。

おばさんにあんたが帰ってきたら店手伝ってって言われてるから」


「……」


どうやら気が動転してるのはわたしだけのようで

彼の表情は何ひとつ変わらない。


だけど


「……話せば」

「えっ!?」



学校での冷酷な彼からこんな言葉が出てくるなんて信じられなくて

思わず大きな声をあげてしまった。


「……なに」

「えっ、あっ、いや」

「いいなら俺行くけど」


お先、と言って立ち上がろうとする。


えっ、いや、ちょっと……



「……待ってください!」


いつも一人で泣いていた。

誰にもバレないようにこっそりと。



だけど


「……わたしの話、聞いてくれますか?」

今日だけは、誰かにすがりたくなってしまった。



瀬戸内くんの目は、学校のときと違って冷え切っていなくって


膝をついて目線を合わせてくれる仕草が

どことなく拓ちゃん(兄)と重なってみえたから。



「……浮気をされました」


自分でも驚くくらい、素直に話をすることが出来た。



「悔しい?」

「……うん」


「じゃあさ……」




ーー見返してやろうか


そう、言って彼は笑った。


話を聞いてくれて

さらにはアドバイスまでしてくれて


学校でのあの態度は

何かの間違いだったのかも!と思い始めたわたしはやっぱり馬鹿だ。


平和なんて、片っ端から崩れ落ちていくものである。