「お前の住んでいた町は、懐かしい感じがして…。
俺が欲しかった空気だった」
「…うん」
「でももう、俺が欲しかったものは手に入ったな」
「?」
「杏、俺はお前がいればそれでいいんだよ」
「直樹…」
「俺、暴走族はやめねぇ。
バイクが好きだかんな。
こんな俺だけど、近い将来結婚してくれるか?」
ポタッと水が落ちる音がした。
あたしの頬から、涙が一筋零れ落ちた。
「勿論だよ…直樹」
そう言って触れ合った唇は、少しだけ冷たかった。
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