智さんの唇があたしの唇に触れた。 「ごめん、杏ちゃん…」 そう呟いて、智さんが立ち去ってしまった。 あたしはただ何も言えなくて。 俯いていると―…。 「何してんだよ…」 最悪な状況になった。 「直樹…?」 振り返ると、直樹が唇を噛み締めていた。 「お前、浮気女だったんだな……。お前もアイツも、結局そうじゃねぇかよ」 「待って、直樹! 今のは」 「言い訳なんて聞きたくねぇ」 直樹の声は、いつもみたいに優しくはなかった。