「あれ、杏ちゃん…?」 その声に振り返ると、智さんがいた。 渋い顔をしている。 「直樹と別居したんだよね?」 「何でそれを…」 智さんが知っているはずがないのに。 どうして知っているのだろうか。 智さんがはっとしたように口元を手で隠した後、すぐに真顔になった。 「聞いてないんだ…」 「え?」 「俺が直樹に言ったんだ。別居しろよって」 「…………え?」 智さんがあたしの腕を掴んだ。 「…俺だって言いたくなかった。 でももう、誤魔化してはいけないと思ったから」