それが智さんの唇だと理解するのに、時間がかかった。 「杏ちゃん、好き…」 「智、さん……。あたしは…」 「ごめん。それでも…。 それでも好きなんだ」 あたしは昔から、誰かを拒むことを恐れていた。 拒絶すれば、絶対に傷つく。 蒼太を遠ざけたように、あんな表情を見たくない。 ―だけど…。 「ごめん、智…さん。あたしはどうしても、愛してる人がいるんだ。 その人はあたしにとって、かけがえのない人なんだ」