「直樹もこういうとこに惚れたんだろうね…」


「ん?」


「何でもない。あのさ」





智さんの声は酷く落ち着きがなかった。




あたしの視界に映ったのは、今にも泣きそうな顔をしている智さんだった。






「俺の…好きだった女は…」






そして堰を切ったように、涙が零れ落ちていった。


「と、智さん?」





胸騒ぎがして、智さんの傍に駆け寄った。



「智さん」



震えている姿を見て、あたしは思わず抱きしめていた。






「落ち着いて話して…」




「…ありがと。杏ちゃん」