走る度に息が上がり冷たい風が顔にあたる


けれど、不思議と寒さは感じなかった


走って走って走って…気づけば見慣れた建物にたどり着いた


グッと手を握りしめ、入り込もうとした瞬間、


──♪♪


鳴り響いたスマホに身体が跳ね上がる


「……」


ピッ


「もしもし?」


〈つ、翼ちゃん、あたしですよ! 緋麻里です!〉


「知ってる」


電話口で緋麻里が〈翼ちゃんに繋がりましたー〉と半泣きで言っているのが聞こえた


「ごめんね。 マナーモードに設定してたから、気づかなくて」


〈そんなのいいんです! 今はどこにいますか?〉


「……病院よ」


〈へっ!?〉


【五十嵐総合病院】


着いた頃には日が沈みかけていた


「私、わかったの。 今を大事にするって決めたの。 もう、昔を理想に求めないわ」


心が軽い


その証拠に私の内心は穏やかだった