抱き締めていた手を離し、半歩離れた


「喜んでいると自分も嬉しいし、悲しんでいると支えたくなる。 その人がいるだけで、安心できる。

……誰かを好きになる、それが一つの愛だと俺は思うんだ」


「……ぁ」


見開いた目から止まりかけていた涙が再び流れ出した


俺は笑って、その背を軽く押した


「気づいたならすぐに行け。 翼は伝える事だけに集中しろ」


「……っ」


「まだ明るいがすぐに暗くなるぞ」


追い出すように資料室の外までその背を押した


「大河は、その…想っていた相手が、いたの?」


思いがけない質問に息が詰まりそうになった


「……前はいたけど今はいない」


そう答えるのに精一杯になった


ヤバイ…また泣きそうだ


「走れよ。 事故だけにはあうなよ」


「……うん。 大河」


「ん?」


「ありがとう」


涙で濡れた顔で翼は笑った