side 一ノ宮紫苑
この日はたまたま。
たまたま、近くのコンビニに行って、
たまたま、この時間に帰って来た。
「な、んで……あんたが……!」
家の近くの角に差し掛かったとき、ふと聞こえた険しい声。
この声を、俺は知ってる。
落ち着いてるけど、梅芽よりも少し幼い、柔らかな声。
「……柚子?」
「せ、先輩!?」
俺が部長を勤める美術部の後輩。
兼、俺が想いを寄せる元カノ。
白鳥柚子がいた。
「なんでこんなところに……。」
そう言って、柚子の方へと足を運ぶ。
柚子の隣に立つ人間は、逆光で顔が見えない。