先輩に言った“用事”ってのは嘘じゃない。
今日は大事な用事が二つもある。
その一つが……。
「沢渡先輩。」
北校舎階段を下りて来た沢渡先輩に声をかけた。
相変わらずの赤茶の髪が目立つ。
「あ? あー……紫苑の彼女の……。」
何かを言いたそうに手を動かす沢渡先輩。
……この調子だと、私の名前覚えてないな。
「一年の白鳥柚子です。」
「あ、それだ。柚子だ。」
本当に覚えてなかったのか。
「俺に何の用? 紫苑は?」
「一ノ宮先輩は先に帰ってもらいました。」
「なんで?」
首を傾げて聞く姿が、少しだけ可愛く思う。

